2025年08月13日
大腸カメラや健診の結果説明で「大腸に憩室がありますね」と言われて、「なにそれ、大丈夫なの?」と不安になった方もいると思います。聞き慣れない言葉なので、病気が見つかったように感じるかもしれません。ただ、大腸憩室そのものは珍しい所見ではなく、多くは症状がなく、見つかっただけで治療が必要になるものではありません。
一方で、憩室に炎症が起きると「憩室炎」、憩室から出血すると「憩室出血」と呼ばれます。同じ「憩室」という言葉がついていても、起きていることや受診の急ぎ方は異なります。この記事では、大腸憩室とは何か、憩室炎・憩室出血との違い、大腸カメラとの関係を整理します。
大腸憩室とは、腸の壁にできた袋状のくぼみです
大腸憩室とは、大腸の壁の一部が外側に小さくふくらみ、袋状のくぼみになったものです。大腸の壁にできた小さなポケットのような構造、と考えるとイメージしやすいかもしれません。腸の壁の弱い部分に圧がかかることなどが関係すると考えられています。
憩室があるだけで症状が出るとは限りません。実際には、大腸カメラやCT検査、健診などで偶然見つかることも多く、症状がなければ経過を見るだけでよい場合がほとんどです。「憩室がある」と言われたら、まずは憩室そのものと、合併症である憩室炎・憩室出血を分けて考えることが大切です。
憩室・憩室炎・憩室出血の違い
3つの言葉は似ていますが、意味は違います。大まかな整理は次の通りです。
| 名称 | 何が起きているか | 主な症状 | 対応の考え方 |
|---|---|---|---|
| 憩室 | 大腸の壁に袋状のくぼみがある状態 | 多くは無症状 | 症状がなければ治療不要のことが多い |
| 憩室炎 | 憩室に炎症が起きている状態 | 腹痛、発熱、腹部の違和感など | 症状の強さに応じて診察・検査・治療を検討 |
| 憩室出血 | 憩室から出血している状態 | 突然の血便、下血など | 出血量や全身状態により早めの受診が必要 |
表の通り、憩室が見つかっただけなら「今すぐ何かをしなければならない」という意味ではありません。ただし、腹痛や発熱、血便が出たときは話が変わります。症状がある場合は、憩室炎や憩室出血だけでなく、ほかの大腸の病気も含めて確認が必要になります。
憩室があると言われたら気をつけること
症状のない大腸憩室に対して、特別な治療を行わないことは少なくありません。日常生活では、便秘を悪化させないようにする、無理ない範囲で水分や食物繊維を意識する、体調の変化を放置しない、といった一般的な腸のケアが基本になります。
ただし、食事内容や薬の扱いは人によって事情が異なります。血液をさらさらにする薬を飲んでいる方、腎臓病や心臓病で水分制限がある方、過去に憩室炎や憩室出血を起こした方では、一般論だけで判断しにくいことがあります。気になる点があれば、診察時に現在の内服薬や既往歴も含めて相談してください。
症状の程度別、対応の目安
ここまでの内容を、症状の強さと対応の目安という軸で整理すると、次のようになります。実際にどの段階にあるかは自己判断ではなく、診察や検査で確認することが必要です。あくまで大まかな目安として参考にしてください。
| 状態 | 目安となるサイン | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 症状なし(健診等で指摘) | 自覚症状はほとんどない | 経過をみることが多く、特別な治療を要さないことがほとんど |
| お腹の張り・軽い違和感 | 一時的な腹部膨満感、便通の乱れ | 生活習慣を見直しながら様子をみることもある |
| 持続する腹痛・発熱 | 憩室炎が疑われる状態。発熱や強い痛みを伴う | 医療機関での評価を検討したい段階 |
| 急な血便・下血 | 憩室出血が疑われる状態 | 速やかな受診が必要 |
憩室炎では、腹痛や発熱が受診の手がかりになります
憩室炎は、憩室に炎症が起きた状態です。症状としては、腹痛、発熱、腹部の張り、吐き気、便通の変化などがみられることがあります。痛む場所は憩室の位置によって変わるため、「右下腹部が痛い」「左下腹部が痛い」など、感じ方には幅があります。
軽い腹痛だけで自然に落ち着くこともありますが、発熱を伴う、痛みが強い、痛みがだんだん増している、食事や水分がとりにくい、歩くと響くように痛い、といった場合は早めに医療機関へ相談してください。腹痛の場所ごとの考え方は、当院コラム「腹痛の原因は!? 部位別チェックガイド」でも解説しています。
憩室出血では、突然の血便で気づくことがあります
大腸憩室出血は、憩室から出血する状態です。特徴として、腹痛などの前触れがはっきりしないまま、突然血便や下血で気づくことがあります。便器の水が赤く染まる、便に赤い血が混じる、血のかたまりのようなものが出るなど、見え方はさまざまです。
現行記事でも触れている通り、大腸憩室出血は自然に止まることもあります。ただ、いったん止まったように見えても再び出血することがあり、出血量が多い場合には貧血や血圧低下につながることもあります。血便を見たときに「痔だろう」と決めつけるのは避けたいところです。
血便の原因には、痔、裂肛、大腸ポリープ、大腸がん、虚血性腸炎、炎症性腸疾患、感染性腸炎などもあります。赤い血だから憩室出血、痛みがないから痔ではない、というように見た目だけで判断することはできません。血便について詳しくは、当院コラム「血便が出たときに考えられる原因」も参考にしてください。
憩室出血は自然に止まることが多い——ただし「止まった」がゴールではありません
大腸憩室出血は、いま日本で下部消化管出血のもっとも多い原因になっています。日本の総説では、その背景として高齢化と、血をさらさらにする薬(抗血栓薬)を服用する方が増えていることが挙げられています。血をさらさらにする薬は、脳梗塞や心筋梗塞の再発予防などで長く必要になる薬で、自己判断でやめてよいものではありません。ただ、こうした薬を飲む方が増えたことが、憩室出血が増えている背景の一つとして挙げられています。
日本人は欧米と比べて、大腸の右側(盲腸・上行結腸)や両側に憩室ができやすいという分布の違いがあり、日本消化管学会が2019年にガイドラインをまとめています。この記事でご紹介する数字も、日本国内の研究と、日本の医師がまとめた総説から引いたものです。
70〜90%は自然に止まりますが、話はそこで終わりません
大腸憩室出血の70〜90%は、何もしなくても自然に止まるとされています。この数字だけを聞くと、「血が止まったなら、もう大丈夫」と思ってしまうのも無理はありません。実際、外来でも「前に血便があったけど、いつの間にか治まったので様子を見ていた」という方によく出会います。
ただ、日本の総説では、1年以内に再び出血する方が最大で35%程度いるとも報告されています。「最大で」という幅のある数字なので、全員に当てはまるわけではありません。ただ、めったに起きないこととは言えない、というくらいの受け止めが実際に近いと思います。全体の死亡率は1%未満とされていますが、出血量が多く出血性ショックに近い状態になり、緊急の対応が必要になる場合もあります。「自然に止まったから終わり」ではなく、「自然に止まりやすいからこそ、再発の確認が本題」というのが、この病気の実際に近いところだと私たちは考えています。
出典:Ichita C, et al. DEN Open. 2025(日本の総説)。
薬で止める方法はなく、内視鏡での止血が中心です
憩室出血を薬だけで確実に止める有効な治療法は、今のところありません。実際に止血が必要になった場合は、大腸カメラ(内視鏡)を使った治療が中心になります。出血している血管をクリップで挟んで留める方法と、輪ゴムのようなバンドで根元をしばって血流を止める方法(バンド結紮、EBL)があり、いずれも初期の止血処置として有効と報告されています。バンド結紮の場合、処置後に再び出血する割合は13〜15%程度とされていますが、クリップとバンド結紮のどちらが優れているかは一概には言えず、出血の状態や場所によって使い分けられているのが実情です。
出血源そのものを見つけるのは、実は簡単ではありません
血便の原因が大腸憩室出血だとわかっていても、大腸カメラで「ここから出血している」という現場を実際に確認できるとは限りません。単施設の132人を対象とした報告では、内視鏡検査で出血している憩室そのものを特定できたのは26例、全体の20%にとどまっていました。出血が一時的に止まっている時間帯に検査を行うことも多いためで、出血源が特定できないこと自体は、この病気では珍しいことではありません。特定できなくても、ほかの病気の可能性を一つずつ確認していく検査としての意味は変わりません。
75歳以上の方は、退院後しばらくしてからの再出血に注意——単施設研究から
単施設の519人を対象とした研究では、75歳以上の方と75歳未満の方を比べると、退院後31日以降に起きる「遅れてやってくる再出血」の割合が、75歳以上で42.3%、75歳未満で30.6%と差があったと報告されています(統計的にも意味のある差、p=0.005)。3年間再出血なく経過した割合も、75歳未満の75.6%に対し75歳以上では63.6%でした。
出典:Sato Y, et al. J Anus Rectum Colon. 2021(単施設・519例の後ろ向き研究)。退院後31日以降に起きる遅発性再出血の割合(p=0.005)。単施設の報告であり、一般化には限界があります。
同じ研究では、再出血のリスクとして、痛み止め(NSAIDs)の使用、慢性腎臓病、大腸の両側に憩室があることの3つが挙げられています。単施設・519例という規模の研究なので、この数字がすべての方にそのまま当てはまるわけではなく、個人差があります。ただ、実務的に持ち帰っていただきたいのは一点だけです。過去に憩室出血を経験したことがある方、とくにご高齢の方は、痛み止めの使い方について自己判断せず、一度主治医に相談していただきたいということです。
「痔だと思っていたら」「憩室出血だと思っていたら」——決めつけないことも治療のうち
血便が出ると、以前に憩室を指摘されたことがある方ほど「またあの憩室からだろう」と思い込みやすい傾向があります。ただ、大腸カメラは止血のためだけでなく、大腸ポリープや大腸がん、虚血性腸炎など、ほかの原因を否定するためにも意味を持つ検査です。憩室出血の既往があっても、今回も同じ原因とは限りません。
「あのとき血便が出て、それきり」という方へ
10〜12月は当院で内視鏡の予約枠をもっとも広く確保している時期で、年末に近づくほど予約が混み合っていきます。過去に血便があり、自然に止まったのでそのままにしている、という方は、混み合う前のこの時期に一度大腸カメラの相談をしていただくとよいタイミングです。年末までに検査を終えたい方向けの逆算スケジュールは、当院コラム「年末までに検査を終えるための逆算スケジュール」でも紹介しています。
大腸カメラは、憩室の発見にも血便の原因確認にも関係します
大腸憩室は、大腸カメラで偶然見つかることがあります。大腸カメラでは、直腸から盲腸までの大腸粘膜を直接観察できるため、憩室の有無だけでなく、ポリープ、がん、炎症、出血のあとなどを確認できます。
血便がある場合には、出血源を調べる検査として大腸カメラが検討されます。憩室出血が疑われる場合でも、実際には別の病気が原因のこともあります。特に便潜血検査で陽性になった場合は、目に見えない出血の原因を調べるために大腸カメラがすすめられます。便潜血陽性については「便潜血、放っておいていいの?」でも解説しています。
検査への不安が強い方には、鎮静剤を使った内視鏡検査が選択肢になることがあります。鎮静剤の考え方や注意点は「鎮静剤を使った内視鏡検査」をご覧ください。
横浜駅前ながしまクリニックでの対応
当院は横浜駅から徒歩3分の場所にあり、消化器内科として胃カメラ・大腸カメラに対応しています。大腸カメラでは鎮静剤の使用、日帰り大腸ポリープ切除に対応しており、血便・下血・強い腹痛・急な貧血などで緊急の内視鏡検査が必要と考えられる場合も毎日対応しています。当日大腸カメラも毎日実施していますが、症状や前処置、予約状況により流れが変わるため、まずはお電話でご相談ください。
大腸憩室を指摘された方、腹痛や発熱がある方、血便が出て不安な方は、自己判断で様子を見続けず、診察で状況を確認しましょう。当院の関連ページもあわせてご覧ください。
FAQ
大腸憩室は取る必要がありますか?
症状のない大腸憩室は、見つかっただけで取る必要がないことが多いです。憩室炎や憩室出血を起こした場合は、症状や検査結果に応じて治療方針を考えます。
憩室があっても大腸カメラは受けられますか?
多くの場合、大腸憩室があっても大腸カメラは受けられます。ただし、強い炎症が疑われる時期などは検査のタイミングを慎重に判断することがあります。症状がある場合は診察でご相談ください。
食事で気をつけることはありますか?
一般的には、便秘を悪化させないように水分や食物繊維を意識することが腸のケアにつながります。ただし、持病や薬の内容によって適した食事は変わるため、不安がある方は診察でご相談ください。
お腹の痛みが強いとき、何科を受診すればいいの?
消化器内科でご相談いただけます。当院でも大腸カメラを含めた評価を行っていますので、痛みの原因がはっきりしない場合もお気軽にご相談ください。
憩室炎は一度なると繰り返すって本当?
憩室炎を経験した方が再び炎症を起こすことはあり得ますが、必ずしもすべての方が繰り返すわけではありません。生活習慣の見直しなどについて、診察の際にご相談ください。
血便が止まったのですが、それでも受診したほうがいいですか?
止まったように見えても、大腸憩室出血は1年以内に再び出血することがあるとされています(日本の総説では最大で35%程度という報告があります)。出血が一度止まっているうちに、大腸カメラで出血源やほかの病気の可能性を確認しておくことをおすすめしています。
血をさらさらにする薬を飲んでいます。自分の判断でやめてもいいですか?
自己判断でやめることはおすすめしません。血をさらさらにする薬は、脳梗塞や心筋梗塞の再発予防など、別の重要な目的で処方されていることがほとんどです。急に中断すると、その病気自体のリスクが上がる可能性があります。血便が出た場合は、薬をやめるかどうかも含めて、処方医と消化器内科の両方にご相談ください。
内視鏡で出血しているところが見つからないこともあるって本当?
本当です。単施設の132人を対象とした報告では、内視鏡で出血している憩室そのものを特定できたのは20%程度だったとされています。出血が一時的に止まっている間に検査をすることも多いためで、特定できないこと自体は珍しくありません。見つからなかった場合でも、ほかの病気の可能性を確認できたという点で検査には意味があります。
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当院の関連診療ページ
関連ページ
医学監修:横浜駅前ながしまクリニック 院長 長島周平(内科・消化器内科)
参考文献
[1] オリンパス おなかの健康ドットコム. 大腸憩室症.
[2] Ichita C, et al. Updated evidence on epidemiology, diagnosis, and treatment for colonic diverticular bleeding. DEN Open. 2025;6(1):e70122. PMID: 40330864.
[3] 国立がん研究センター東病院. 大腸がんについて.
[4] 公益財団法人日本医療機能評価機構 Mindsガイドラインライブラリ. 大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン.
[5] Sato Y, et al. Risk Factors for Late Rebleeding of Colonic Diverticular Bleeding in Elderly Individuals. J Anus Rectum Colon. 2021.
[6] Takada H, et al. Extravasation and fluid collection on computed tomography imaging in patients with colonic diverticular bleeding. PLoS One. 2020.
[7] Nagata N, et al. Guidelines for Colonic Diverticular Bleeding and Colonic Diverticulitis: Japan Gastroenterological Association. Digestion. 2019.
