2026年09月22日
外来で「ここ数か月、下痢と便秘を交互に繰り返していて」という相談を受けることがあります。便秘薬を飲むとしばらくして下痢になり、落ち着いたと思うとまた便が出にくくなる。そんなリズムです。「IBS(過敏性腸症候群)かもしれない」と思う一方で、「大腸がんだったらどうしよう」という不安がよぎる方も少なくありません。今日は、下痢と便秘を繰り返す症状について、様子を見てよい状態と、大腸カメラで確かめておきたい状態の線引きをお話しします。
「繰り返す」こと自体は珍しくない
過敏性腸症候群(IBS)には、便秘型・下痢型のほかに、下痢と便秘を交互に繰り返す「混合型」という分類があります。日本消化器病学会のガイドラインによると、IBSの有病率はおよそ10%とされており、下痢と便秘を繰り返すという訴えそのものは、消化器内科の外来でよく聞く相談の一つです。IBSがなぜ起こるのか、ストレスとの関係や治療法については、こちらの記事やこちらの記事で詳しく取り上げているので、ここでは深入りしません。
症状だけでは、実は決まらない
IBSの国際的な診断基準「Rome IV」は、腹痛が直近3か月のうち週1日以上あり、排便に関連する・排便の回数が変わる・便の形が変わる、のうち2項目以上を満たすことなどを目安にしています。ただ、この基準には通常の検査で見つかるような病気――大腸がんや炎症性腸疾患など――が原因ではないことが前提になっている、という事情があります。
実際、大腸がんも腸が狭くなることで、便秘や下痢、便が細くなる、便が残る感じ、お腹の張りが出ることがあります。つまり「下痢と便秘を繰り返す」という症状の見た目だけでは、IBSなのか、ほかの病気が隠れているのかは区別がつかない、というのが実際のところです。
様子を見てよい傾向
- 数か月、ゆるやかに下痢と便秘を繰り返している
- 血や体重の変化がない
- 発熱や関節痛がない
- 50歳未満で、大腸の病気の家族歴もない
大腸カメラを考えたいサイン
- 血が混じる、体重が理由なく減った
- 発熱や関節痛がある
- 50歳以上で症状が始まった、または50歳以上
- 大腸の病気の既往・家族歴がある
- 健診で便潜血陽性・貧血を指摘された
- 自分で「調べてほしい」と感じる
※ どちらか迷うときは、一つでも当てはまれば右側として考えてください。左側に当てはまる場合も、つらいときや長引くときは診察でご相談いただけます。
大腸カメラで確かめたいサイン
- 発熱・関節痛がある
- 血便がある
- 思い当たる理由がないのに、6か月以内に体重が3kg以上減った
- 50歳以上で症状が始まった、または50歳以上
- 大腸の病気にかかったことがある、または家族にいる
- 健診などで便潜血陽性・貧血を指摘された
- 自分で「調べてほしい」と思う
※ 一つでも当てはまれば、大腸内視鏡検査(または大腸造影検査)で確かめることになっています。ご本人の希望も対象に含まれます(出典:日本消化器病学会『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS)』)。
ガイドラインでは、腹痛や便通異常のある人のうち、上記のいずれか一つでも当てはまれば大腸内視鏡検査(または大腸造影検査)で確かめることになっています。便潜血陽性の指摘や、家族に大腸がんの人がいる場合も、この危険因子に含まれます。
くわえて、本人が精密検査を希望する場合も精査の対象になるとガイドラインには明記されています。心配な気持ちを抱えたまま様子を見続ける必要はなく、「気になるから調べてほしい」という気持ちそのものが受診の理由になってよい、ということです。意図しない体重減少がある場合も同じです。
急に始まった変化は、少し別に考える
先ほどのRome IV基準は、症状が出始めてから6か月以上経っていて、直近3か月は基準を満たしていることが前提になっています。裏を返せば、ここ数週間で急に始まった下痢や便秘の変化は、そもそもこの基準の対象に入っていません。急性の便通異常は、慢性的に繰り返すIBSとは分けて考える。それがガイドラインの立場です。急に始まった変化が続くとき、血便や強い腹痛をともなうときは、数か月待たずに早めにご相談ください。
見落としやすい点――下剤と下痢止めの往復
もうひとつ、見落とされやすい点があります。混合型かどうかの判定は、下剤や下痢止めを使っていないときの便の状態で行うことになっています。市販の便秘薬を飲んで下痢になり、下痢止めを飲んでまた便秘に戻る――という自己判断での往復をしている場合、それだけでは正確な判定ができません。受診の際は、どの薬をどのくらい使っているかも遠慮なく教えてください。
受診のときに伝えていただきたいこと
受診のときに伝えていただきたいメモ
- いつから始まったか
- 硬い便と軟らかい便、どちらが多いか
- 血が混じることがあるか
- 体重の変化
- 使っている薬(下剤・下痢止め・市販薬を含む)
- 家族に大腸の病気の人がいるか
- (女性の場合)生理との関係
いつから始まったか、硬い便と軟らかい便のどちらが多いか、血が混じることがあるか、体重の変化、使っている薬(下剤・下痢止め・市販薬を含む)、家族に大腸の病気の人がいるか。こうした情報があると、診察がスムーズになります。女性の場合、生理のタイミングで便通が変わることもあります。心当たりがある方は生理のたびにお腹をこわす・便秘になるの記事もあわせてご覧ください。
当院での流れ
診察でお話をうかがったうえで、必要に応じて血液検査や便の検査を行い、大腸カメラで確認するかどうかを判断します。鎮静剤を使った検査にも対応しており、ポリープが見つかった場合は適応があれば日帰りで切除します。検査の日程は診察時やお電話でご相談ください(当日の検査をお約束するものではありません)。大腸カメラのご案内が中心になりますが、症状によっては胃カメラもあわせてご案内することがあります。
10〜12月は内視鏡の枠が埋まりやすく、12月分は例年11月のうちに埋まり始めます。気になる症状がある方は、秋のうちに一度ご相談いただくのも一つの手だと思います。診療は月〜土曜、日曜・祝日は休診です。
よくある質問
下痢と便秘を繰り返しているのですが、何科を受診すればいいですか?
消化器内科・内科にご相談ください。当院でも診察のうえ、必要に応じて検査をご案内しています。
市販の下剤や下痢止めを使っているのですが、それでも受診していいの?
もちろん受診していただいて構いません。むしろ、何をどのくらい使っているかを伝えていただくほうが、正確な判断につながります。
症状は軽いほうだと思うのですが、それでも検査してもらえるものですか?
本人が精密検査を希望する場合も、ガイドライン上は精査の対象になります。気になる気持ちがあれば、まずご相談ください。
監修
横浜駅前ながしまクリニック 院長 長島周平(内科・消化器内科/日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医、日本消化器病学会認定 消化器病専門医、日本肝臓学会認定 肝臓専門医、日本内科学会 認定医)
参考文献
- 日本消化器病学会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版). https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf(2026年9月15日確認)
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 大腸がん(結腸がん・直腸がん)について. https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/about.html(2026年9月15日確認)
- Mearin F, Lacy BE, Chang L, et al. Bowel Disorders. Gastroenterology. 2016;150(6):1393-1407. PMID: 27144627. https://doi.org/10.1053/j.gastro.2016.02.031(2026年9月15日確認)
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