2026年09月01日
秋になると、人間ドックのオプションで受けた「胃がんリスク検診」の結果を持って外来に来る方が増えます。「B群」と書かれているけれど何のことか分からない、A群だったので安心していいのか気になる――そういった相談です。実はこの検査、名前とは裏腹に「胃がんを探す検査」ではありません。血液から胃の状態を推測して、なりやすさで分類する検査です。この記事では、ABC検診(胃がんリスク検診)の判定の意味と、判定を受け取った後にどうすればいいかを整理します。
ABC検診(胃がんリスク検診)とはどんな検査ですか?
血液検査でペプシノゲンとピロリ菌抗体の値を調べ、胃の萎縮の「なりやすさ」を推測する検査です。胃の中を直接見ているわけではありません。
ABC検診(胃がんリスク検診・ABC分類とも呼ばれます)は、血液検査でペプシノゲンという物質の値と、ピロリ菌に対する抗体の有無を調べ、その組み合わせでA群からD群に分けるものです。ペプシノゲンは胃の粘膜から出る消化酵素のもとで、粘膜に萎縮があると値やその比率が下がります。つまりこの検査でわかるのは「胃の粘膜がどのくらい傷んでいそうか」という間接的な情報にとどまり、実際にがんやポリープがあるかどうかは血液だけでは判定できません。胃の中を直接確認できるのは、胃カメラだけです。
A群からD群の判定はどうやって決まるのですか?
ピロリ菌抗体とペプシノゲン、それぞれの陽性・陰性の組み合わせで4つの群に分けられます。一般に、A群からD群の順にリスクが高いとされています。
組み合わせは4通りあります。ピロリ抗体が陰性でペプシノゲンも陰性ならA群、抗体が陽性でペプシノゲンが陰性ならB群、両方陽性ならC群、抗体が陰性でペプシノゲンが陽性ならD群、という分け方です。
| ピロリ菌抗体 | ペプシノゲン | 判定 |
|---|---|---|
| 陰性 | 陰性 | A群 |
| 陽性 | 陰性 | B群 |
| 陽性 | 陽性 | C群 |
| 陰性 | 陽性 | D群 |
出典:日本ヘリコバクター学会 胃癌リスク評価に資する抗体法適正化委員会「血清抗体法を用いたヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染診断に関する注意喚起(2022年版)」をもとに作成
ABC検診は胃がん検診として推奨されていないというのは本当ですか?
本当です。国立がん研究センターは、死亡率を減らす科学的根拠が現時点で不十分だとして、対策型の胃がん検診としては推奨していません。
少し意外に思われるかもしれませんが、国立がん研究センターは、ペプシノゲン検査やヘリコバクター・ピロリ抗体検査、それらを組み合わせたABC検査等について「胃がんで亡くなることを防ぐ科学的根拠が現時点で不十分であり、受診した場合に不利益が利益を上まわるため、胃がん検診としては推奨されていません」としています。国が推奨する胃がん検診は、50歳から2年に1度、胃部X線検査か胃内視鏡検査のどちらかを選んで受ける形です。
同センターのがん検診ガイドラインでは、ペプシノゲン法・ピロリ抗体法・その併用法は「推奨グレードI」、つまり死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分で、市区町村などが住民向けに行う対策型検診としては勧められていないとされています。一方、胃内視鏡検査は「推奨グレードB」で、死亡率減少効果を示す相応な証拠があるとされ、検診対象は50歳以上、間隔は2〜3年とすることが可能とされています。人間ドックのような任意型検診でABC検査を受けること自体が否定されているわけではありませんが、任意型検診として実施する場合には効果が不明であることを適切に説明する必要がある、という位置づけです。
A群だった場合、もう安心してよいのでしょうか?
そうとは言い切れません。過去に除菌治療を受けた方や感染歴がはっきりしない方は、抗体の値が実際より軽い判定として出ることがあります。
私たちが診察でよく説明するのは、A群でも油断できないケースがあるという点です。日本ヘリコバクター学会は、血清の抗体価は今のピロリ菌感染の状態をそのまま反映するものではないと注意を促しています。過去に感染していたけれど自然に菌が減っていた人や、すでに除菌治療を終えた人は、抗体の値が下がって「陰性側」に見えることがあります。粘膜の萎縮そのものは残っているのに、判定だけを見るとリスクの低い群に入ってしまう――これがいわゆる「偽A群」で、実際のリスクより判定が軽く出てしまう状態を指す呼び方です。
そもそも除菌治療をすでに受けた方は、ABC分類が前提とする自然な感染状態から外れます。除菌後は血液判定に頼らず、内視鏡での定期的な確認に切り替える必要があります。この点はピロリ菌除菌後も胃カメラが必要な理由でも詳しく説明しています。
判定結果を受け取ったら、次に何をすればいいですか?
B群・C群・D群は胃カメラでの確認が基本です。A群でも、除菌歴がある方や感染歴がはっきりしない方は同じように考えます。
B群・C群・D群と判定された方は、血液検査の結果だけで終わらせず、胃カメラで実際の粘膜の状態を確認するのが基本です。A群であっても、過去に除菌治療を受けたことがある方や感染歴がはっきりしない方は同様に考えます。萎縮性胃炎そのものについてはこちらの記事でも解説しています。
判定の内容にかかわらず、胃の痛みや不快感、食欲不振、食事がつかえる感じなどの症状がある場合は、検診結果を待たずすぐに医療機関を受診してください。早期の胃がんは自覚症状がないことが少なくないため、症状の有無と判定結果は分けて考える必要があります。バリウム検査で「要精密検査」となった場合の考え方はこちらの記事にまとめています。
- A群で、除菌歴・感染歴に不明な点がない ── 経過を相談しながら様子を見る
- A群だが、除菌歴がある、または感染歴がはっきりしない ── 胃カメラで確認
- B群・C群・D群 ── 胃カメラで確認
- 症状がある(痛み・食欲不振・食事のつかえ感など) ── 判定を待たずすぐ受診
ABC検診の血液検査は毎年受け直したほうがいいのですか?
学会は、人間ドックや健診で同じ血清抗体検査を漫然と毎年繰り返すことには留意を呼びかけています。
日本ヘリコバクター学会は、人間ドックや健診で漫然と毎年同じ血清抗体検査を繰り返さないよう留意を呼びかけています。一度ABC分類で自分の状態を把握したら、そのあとは同じ血液検査を逐年受け直すより、必要に応じた内視鏡でのフォローに切り替えるほうが理にかなっている、というのが学会の立場です。
健診結果を受け取ったら、いつまでに相談すればいいですか?
気になった段階で早めにご相談いただくと、年内のうちに検査まで終えやすくなります。
9月から11月は人間ドックや職域健診の結果が続々と届く時期で、10月から12月は当院でも内視鏡検査の枠が混み合いやすい時期にあたります。判定結果を受け取って気になった段階で早めにご相談いただくと、年内のうちに検査まで終えやすくなります。当院の胃カメラ検査は鎮静剤を使った方法にも対応しており、検査の流れや準備については診療ページにまとめています。何歳から受けるべきかで迷う場合は年代別の目安もあわせてご覧ください。
大腸の検査もあわせて検討したほうがいいですか?
胃がんリスク検診と同じタイミングで、大腸の検査をあわせて検討される方も少なくありません。
胃がんリスク検診と同じタイミングで、大腸の検査を検討される方も少なくありません。人間ドックのオプションを見直す機会に、大腸カメラ検査についてもあわせてご確認いただくと、次回の健診に向けた計画が立てやすくなります。
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よくある質問
A群だったのに胃カメラを勧められました。これって本当に必要?
はい、必要になる場合があります。過去にピロリ菌の除菌治療を受けたことがある方や、感染歴がはっきりしない方は、抗体の値が実際の状態より低めに出てA群側に分類されることがあるためです。日本ヘリコバクター学会もこの点を注意喚起しており、こうした方は判定に関わらず内視鏡での確認をおすすめしています。
自覚症状は全くないのですが、それでも検査したほうがいいのでしょうか
早期の胃がんは自覚症状がないことが少なくないとされています。B群以降の判定を受けた方や、除菌歴・感染歴がはっきりしないA群の方は、症状の有無にかかわらず一度胃カメラで粘膜の状態を確認しておくと安心です。
ABC検査は毎年受け直したほうが安心なのでは?
日本ヘリコバクター学会は、人間ドックや健診で同じ血清抗体検査を漫然と毎年繰り返さないよう留意を呼びかけています。一度ABC分類で状態を把握したあとは、血液検査を繰り返すより、必要に応じて内視鏡でフォローするほうが基本的な考え方になります。
監修
監修:院長 長島周平(内科・消化器内科)
