2026年09月12日
「まだ夏バテが抜けなくて」。9月に入ってからの外来で、こう話す方が毎年一定数いらっしゃいます。食欲がわかない、体がだるい、胃がもたれる——真夏に始まった不調が、涼しくなっても続いている状態です。多くは暑さの後始末のようなもので、生活が戻れば自然に軽くなっていきます。ただ、同じ症状の中に、暑さでは説明がつかないまま居座っているものが混ざっていることがあります。今日はその見分け方を整理します。
「夏バテ」は、実はそのまま病名になっているわけではない
「夏バテ」という言葉は、暑さによる食欲不振やだるさをまとめて指す通称であり、医学的に定義された病名ではありません。高温多湿の環境で自律神経や消化機能に負荷がかかり、冷房と屋外の温度差、寝苦しさによる睡眠不足、食欲低下からくる栄養の偏りが重なって起こると考えられています。こうした暑さ由来の不調は、気温が下がって生活リズムが戻れば、時間とともに軽くなっていくのが基本の経過です。
暑さで説明できる不調
- 真夏(7〜8月)に始まった
- 涼しくなるにつれて少しずつ軽くなる
- だるさ・食欲低下が中心で、他の症状を伴わない
別の原因を考えるとき
- 9月に入っても良くならない
- 一度楽になったのに、また戻ってきた
- 体重減少・動悸・便の変化など、他の症状が加わってきた
問題は、9月に入っても良くならない場合や、一度楽になったのにまた同じ症状が戻ってきた場合です。ここまでくると、「暑さのせい」で片づけてきた不調に、別の原因が混ざっている段階を考えたほうがいい。
涼しくなっても戻らないとき、暑さのせいにされやすい別の原因
まず考えたいのが貧血です。厚生労働省のe-ヘルスネットは、鉄が不足して貧血になると血液の循環が滞り、筋肉への酸素供給が減って「筋力低下や疲労感といった症状も起こります」と説明しています [1]。夏バテのだるさとほぼ同じ形で現れるため、見分けがつきにくいタイプです。
次に甲状腺の病気。診察していて見落とされやすいと感じるのがバセドウ病で、日本内分泌学会の解説には「疲れやすい」に加え「動悸、体重減少、指の震え、暑がり、汗かきなどの症状」が挙げられています [2]。「今年は特に暑がりで」という訴えそのものが、実は暑さではなく甲状腺の機能が高まっていることによる場合があるわけです。
代謝の変化としては糖尿病も挙げられます。日本糖尿病学会は、糖尿病で「体重が減少したり、体がだるいと感じたりすることがあります」としています [3]。食欲は普通にあるのに体重だけ落ちていく場合、暑さによる食欲不振とは経過が異なります。
こころの状態が関係していることもあります。厚生労働省のe-ヘルスネットは、うつ病の身体症状として「食欲がでない(食欲低下)・眠れない/起きられない(不眠/過眠)・体がだるい(倦怠感)」を挙げています [4]。夏の疲れが抜けないという訴えの背景に、こうした変化が隠れていることもあります。
そして消化管そのものの病気。胃もたれが慢性的に続く場合、日本消化器病学会のガイドラインは、機能性ディスペプシアを「症状の原因となる明らかな異常がないのに、慢性的にみぞおちの痛み(心窩部痛)や胃もたれなどのディスペプシア症状を呈する病気」と説明しています [5]。数日で治まる暑さ負けの胃もたれと違い、こちらは慢性的に続くのが特徴です。
期間の目安を待たずに相談してほしいサイン
- ダイエットをしていないのに体重が減ってきた
- 便が黒っぽい
- 食べ物が喉や胸につかえる感じがある
- 嘔吐を繰り返して水分もとりにくい
ここに挙げるものは、9月という期間の目安を待たずに相談してほしいサインです。暑さだけでは説明しにくい経過であり、体の他の部分で何かが起きている可能性を考えます。国立がん研究センターも、胃がんの症状として「食事がつかえる、体重が減る、といった症状がある場合は、進行胃がんの可能性もあります」と述べています [6]。体重減少そのものについては、別記事のダイエットしていないのに体重が減る——考えられる原因と受診の目安でも扱っています。
秋まで続く胃もたれ・食欲不振は、胃カメラで直接確かめられる
暑さのせいで片づけてきた胃もたれや食欲不振が長引くとき、原因が胃炎や潰瘍、あるいは腫瘍性の変化かどうかは、問診だけでは判断がつきません。上部消化管の粘膜を直接確認できるのは胃カメラ検査しかなく、当院では白色光観察に加えBLI・LCIという特殊光観察を用いて、粘膜表面の微細な変化も観察しています。食欲不振そのものの原因を広く知りたい方は、別記事の食欲がわかない・食欲不振が続く――考えられる原因と受診の目安もあわせてご覧ください。おなかのどのあたりが痛むかで整理したい方は腹痛の原因を部位別に解説|考えられる病気と受診の目安もどうぞ。
なお、下痢や便通の変化が秋まで続く場合や血便がある場合は、大腸側の評価も必要です(大腸カメラ検査)。夏の下痢は食中毒だけでなく熱中症でも起こるため、夏の下痢は食中毒だけじゃない?熱中症との見分け方も参考になります。胃がんの初期症状を詳しく知りたい方は胃がんの初期症状とは|見逃しやすいサインと検診の目安もご覧ください。
よくある質問
夏バテは病院で治療してもらえる病気なんですか?
「夏バテ」自体は医学的に定義された病名ではなく、暑さや冷房と屋外の温度差、睡眠不足、食欲低下による栄養の偏りが重なって起こる不調の通称です。気温が下がり生活リズムが戻れば自然に軽くなっていくのが基本の経過ですが、9月に入っても良くならない場合や、一度楽になったのにまた同じ症状が戻ってきた場合は、暑さ以外の原因が混ざっている可能性を考えます。
何月まで様子を見ていいですか?いつ受診すればいいでしょうか?
期間の目安は9月ですが、それを待たずに相談してほしいサインもあります。ダイエットをしていないのに体重が減ってきた、便が黒っぽい、食べ物が喉や胸につかえる感じがある、嘔吐を繰り返して水分もとりにくい——これらは暑さだけでは説明しにくい経過であり、体の他の部分で何かが起きている可能性があるため、期間の目安を待たずに相談することをお勧めします。
胃もたれや食欲不振が続く場合、何をすれば原因がわかりますか?
問診だけでは、原因が胃炎や潰瘍、あるいは腫瘍性の変化かどうかは判断がつきません。上部消化管の粘膜を直接確認できるのは胃カメラ検査だけで、当院では白色光観察に加えBLI・LCIという特殊光観察を用いて、粘膜表面の微細な変化も観察しています。下痢や便通の変化が秋まで続く場合や血便がある場合は、大腸カメラでの評価もあわせて必要になります。
監修
横浜駅前ながしまクリニック 院長 長島周平(内科認定医、日本消化器病学会専門医、日本内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医)
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 鉄(てつ). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-022.html
- 一般社団法人日本内分泌学会. バセドウ病|一般の皆様へ(最終更新日:2019年11月4日). https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=40
- 一般社団法人日本糖尿病学会. 糖尿病ってどんな病気?(更新日:2021年9月2日). https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=2
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 心身の不調への対応(Hearts). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart-summaries/k-04.html
- 日本消化器病学会. 患者さんとご家族のための機能性ディスペプシアガイド2023. https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/fd_2023.pdf
- 国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス. 胃がんについて(更新日:2026年1月13日). https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/about.html
