2025年08月10日
胃腸炎とは何か?
胃腸炎とは、胃や小腸・大腸の消化管粘膜に炎症が起きている状態を指します。多くの場合、その原因はウイルスや細菌などの病原体への感染(感染性胃腸炎)ですが、まれに有害な化学物質の摂取や薬剤の副作用によって生じることもあります。胃腸の粘膜に炎症が起こると臓器が腫れて過敏になり、腹痛や吐き気、下痢などの症状を引き起こします。これはクリニックで「胃腸風邪」などとも呼ばれる一般的な病気で、健康な成人であれば多くは数日で自然回復します。ただし、脱水などを伴うと重症化することもあるため油断は禁物です。

胃腸炎の種類と主な原因
胃腸炎の原因は多岐にわたります。感染性胃腸炎の中ではウイルス性胃腸炎が最も多く、次いで細菌性胃腸炎(いわゆる食中毒)、さらに寄生虫によるものが代表的です。原因によって流行しやすい時期や感染経路、症状の出方に違いがあるため、順にみていきましょう。
ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス・ロタウイルス・アデノウイルスなど)
ウイルス性胃腸炎の代表格はノロウイルスです。厚生労働省によると、ノロウイルスは一年を通じて発生しますが特に冬季に流行し、11月頃から報告が増え始め12月〜翌年1月頃にピークを迎えます。感染者の便や吐ぶつからの二次感染、家庭や共同生活施設での飛沫・接触感染のほか、汚染された二枚貝を生や加熱不足で食べた場合、消毒不十分な井戸水や簡易水道を介した感染もあります。潜伏期間は24〜48時間で、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛が主な症状です。発熱は軽度で、多くは1〜2日ほどで治まります。乳幼児に多いロタウイルスは、冬から春に流行し、特に年明けから春先にピークを迎える傾向があります。ごくわずかなウイルス量でも感染が成立するほど感染力が強く、主な感染経路は糞口感染です。潜伏期間は通常2日程度で、発熱・嘔吐から始まり24〜48時間後に頻回の水様便がみられます(血便を伴わないのが特徴です)。通常1〜2週間ほどで自然に治まります。アデノウイルスによる胃腸炎は6歳以下の小児に多く、潜伏期間は約3〜10日とやや長めです。他のウイルス性胃腸炎に比べて下痢の期間が長引きやすいとされています。
細菌性胃腸炎(食中毒)
細菌性胃腸炎は一般に食中毒と呼ばれ、原因菌によって流行しやすい時期が異なります。カンピロバクターは国内の細菌性食中毒の中でも報告数が多い原因菌で、加熱不十分な鶏肉(鶏レバーやささみの刺身、鶏わさなどの半生製品)や調理中の二次汚染が中心で、消毒不十分な井戸水などの水系感染もあり得ます。潜伏期間は1〜7日(平均2〜3日程度)とやや長く、下痢・腹痛・発熱に加えて頭痛や倦怠感を伴うことがあり、まれにギラン・バレー症候群という神経の合併症を起こすこともあります。流行のピークはサルモネラや腸炎ビブリオより早く、春から初夏(5〜7月頃)に多くみられます。サルモネラは卵やその加工品、食肉、ペットなど動物との接触が主な感染源で、夏(7〜9月頃)にピークを迎える傾向があります。潜伏期間は8〜48時間と比較的短く、まず嘔気・嘔吐がおこり、数時間後に腹痛・下痢が現れます。下痢は3〜4日ほど続くことが多いですが、1週間以上に及ぶこともあります。腸管出血性大腸菌(O157など)は生や加熱不足の食肉、消毒不十分な井戸水などから感染するほか、ヒトからヒトへの二次感染も起こります。夏季に多いものの冬季にもみられ、潜伏期間は3〜8日程度です。激しい腹痛を伴う頻回の水様便に続いて血便がみられることがあり、発熱は軽度なことが多い一方、一部で溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重い合併症を起こすことがあります。血便や強い腹痛に加えて、尿が少ない・ぐったりするなどの様子がみられる場合は、早めに受診してください。
その他の原因(薬剤性・ストレスなど)
感染症以外にも、薬剤性胃腸炎といって薬の影響で胃腸の粘膜が傷ついてしまう場合があります。また、これとは別に、抗菌薬(抗生物質)の使用後に腸内細菌のバランスが崩れてクロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)という細菌が増殖し、腸炎を起こすことがあります。また、抗がん剤や放射線治療の副作用、消炎鎮痛薬(NSAIDs)の長期使用なども胃腸粘膜を傷つけ、下痢や腹痛を招く原因になり得ます。なお、ストレスや過度の疲労が胃腸炎の直接の原因になるかどうかについては、明確な医学的根拠は確立されていません。ただしストレスは胃腸の動きや体の抵抗力に影響することが知られており、腹痛や下痢など胃腸炎に似た症状につながることもあるため、症状が続く場合は自己判断せず医療機関にご相談ください。このように胃腸炎にはさまざまな種類がありますが、いずれの場合も胃腸の粘膜に炎症が生じる点は共通しています。
原因別の比較(早見表)
ここまでの内容を、原因別に整理すると以下のとおりです。
| 原因 | 潜伏期間 | 流行時期 | 主な感染経路 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|---|---|
| ノロウイルス | 24〜48時間 | 冬季(12月〜翌年1月頃ピーク) | 便・吐ぶつからの二次感染、飛沫・接触感染、汚染された二枚貝の生食、汚染水 | 吐き気・嘔吐・下痢・腹痛(発熱は軽度)、1〜2日ほどで治まる |
| ロタウイルス | 通常2日程度 | 冬から春(年明けから春先にピーク) | 糞口感染(ごく少量で感染が成立) | 発熱・嘔吐に続き頻回の水様便(血便は伴わない)、1〜2週間ほどで治まる |
| アデノウイルス | 約3〜10日 | 明確な季節性は確認されていません | 接触・飛沫感染が主体とされ、食品を介する事例は少ない | 下痢・嘔吐・発熱、下痢が長引きやすい |
| カンピロバクター | 1〜7日(平均2〜3日) | 春〜初夏(5〜7月頃ピーク) | 加熱不十分な鶏肉・調理中の二次汚染が中心、井戸水などの水系感染もあり得る | 下痢・腹痛・発熱・頭痛・倦怠感、まれにギラン・バレー症候群 |
| サルモネラ | 8〜48時間 | 夏(7〜9月頃ピーク) | 卵・食肉の汚染、ペットなど動物との接触 | 嘔気・嘔吐に続き腹痛・下痢(3〜4日、時に1週間以上) |
| 腸管出血性大腸菌(O157など) | 3〜8日程度 | 夏季に多いが冬季にもみられる | 生・加熱不足の食肉、汚染水、ヒトからヒトへの二次感染 | 激しい腹痛を伴う頻回の水様便から血便、一部で溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重い合併症 |
上記の潜伏期間・流行時期・感染経路は、厚生労働省および国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所)の公表資料に基づいています。主な出典は以下のとおりです。
- 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
- 国立健康危機管理研究機構「ロタウイルスによる感染性胃腸炎(詳細版)」
- 国立健康危機管理研究機構「腸管アデノウイルスによる感染性胃腸炎」(IASR)
- 厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
- IASR「カンピロバクター、食中毒、集団発生」(食中毒原因菌の季節比較)
- 国立健康危機管理研究機構「サルモネラ感染症(詳細版)」
- 厚生労働省広報誌「サルモネラ属菌による食中毒について」
- 国立健康危機管理研究機構「腸管出血性大腸菌感染症(詳細版)」
- 厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」
胃腸炎の主な症状
胃腸炎になると現れる症状は、原因によって多少異なるものの共通するものが多くあります。典型的には下痢、吐き気・嘔吐、そして腹痛が主な症状です。多くの感染性胃腸炎では突然これらの症状が現れ、食欲不振や発熱、悪寒、全身のだるさを伴うこともあります。腹痛はしばしば差し込むような(痙攣性)の痛みとして感じられ、腸がゴロゴロと動く音(腸鳴)を伴うことがあります。また、腸管内にガスが過剰に発生・蓄積するとお腹が張って膨満感が生じ、それも痛みの一因となります。症状の程度は、体内に入った病原体の種類や量、そして患者さん自身の抵抗力によって左右され、軽症で済む場合もあれば重症化するケースもあります。特に激しい嘔吐や下痢が続くと脱水症状に陥ることがあるため注意が必要です。
胃腸炎で腹痛が起こるメカニズム
では、胃腸炎の際になぜ強い腹痛が起こるのでしょうか。その原因は主に腸の炎症反応とそれに伴う生理的変化にあります。
まず、ウイルスや細菌が消化管に感染すると、腸の粘膜がむくんで水分を含みやすい状態(浮腫)になります。粘膜が腫れることで腸壁の神経が刺激されやすくなり、痛みを感じやすくなります。実際にウイルス感染では、感染した腸管の粘膜が腫れて水っぽくなるため嘔吐や下痢とともに腹痛が起こる、と説明されています。炎症によって腸の内部では粘膜からの分泌液や浸出液が増加し、腸管内に液体が過剰に溜まります。その結果、腸が拡張されて内部から押し広げられるため、腸壁の伸展を痛みとして感じることになります。このような腸管の張りと膨満も腹痛の重要なメカニズムの一つです。
さらに、胃腸炎では体の免疫反応が活発化し、炎症部位で様々な化学物質(炎症性メディエーター)が放出されます。例えばヒスタミン、ブラジキニン、インターロイキンなどの物質は炎症が起きた組織から放出され、これらが腸の神経(痛覚受容体)に直接作用すると痛みを引き起こします。実際、急性の胃腸炎のような積極的な炎症では、これらの炎症性物質が痛みの神経を敏感にさせ、痛覚を増強することが知られています。言い換えれば、腸の中で起こった戦い(免疫反応)の副産物として発生した物質が、神経を刺激して腹痛という不快なシグナルを脳に送っているのです。
もう一つのメカニズムは、腸のぜん動運動の亢進です。胃腸炎では体が侵入した病原体を排除しようとして腸の動き(ぜん動)が活発になります。特に細菌が産生する毒素やウイルスそのものの影響で腸の神経系が刺激されると、内容物を早く押し出そうとして腸管が痙攣的に収縮し、その結果差し込むような腹痛(腹部けいれん)を引き起こします。例えば抗がん剤治療では副交感神経への影響で腸のぜん動運動が活発化し下痢が起こることがありますが、感染性胃腸炎でも同様に腸が過剰に動くことで痛みを伴う便意や下痢が生じるのです。この痙攣性の痛みは一時的に治まってはまた波のように繰り返すのが特徴で、まさに腸が活発に動いているサインと言えます。
以上のように、胃腸炎で腹痛が起こる背景には、粘膜の炎症と腫れによる刺激、炎症性物質による痛覚神経の敏感化、そして腸の痙攣的収縮(ぜん動亢進)といった複数の要因が絡んでいます。胃腸炎の腹痛は体が病原体と闘っている証拠とも言えますが、痛みが強い場合には無理をせず医療機関で相談されると良いでしょう。適切な水分補給や対症療法によって症状を和らげることが可能です。ただし市販の痛み止めや下痢止めを自己判断で使うのは避け、必ず医師や薬剤師に相談してください(特に細菌性胃腸炎では下痢止めの使用が症状を悪化させることがあります)。胃腸炎による腹痛は非常につらいものですが、そのメカニズムを正しく理解することで適切に対処し、早期の回復につなげましょう。
よくある質問
胃腸炎の腹痛はどんな痛みが多いですか?
胃腸炎では、差し込むような痙攣性の痛みや、お腹がゴロゴロ動く感じを伴う痛みがみられることがあります。腸の粘膜の炎症、腸管内の液体やガスによる張り、腸のぜん動運動が活発になることなどが関係します。
胃腸炎の腹痛で受診を考える目安はありますか?
痛みが強い場合、激しい嘔吐や下痢が続く場合、水分が取れない場合、脱水が心配な場合は医療機関に相談してください。市販の痛み止めや下痢止めは、原因によっては合わないことがあるため、自己判断で使わず医師や薬剤師に相談することが大切です。
胃腸炎のとき水分はどう取ればよいですか?
嘔吐や下痢があると脱水になりやすいため、水分補給が大切です。一度に多く飲むと気持ち悪さが強くなることがあるため、飲める範囲で少量ずつ取るとよいでしょう。水分が取れない、尿が少ない、ぐったりするなどがあれば受診を検討してください。
胃腸炎の原因で最も多いのは何ですか?
感染性胃腸炎ではウイルス性が多く、特に冬はノロウイルスなどが目立ちます。一方、カンピロバクターやサルモネラなどによる細菌性(いわゆる食中毒)は春から夏にかけて増える傾向がありますが、いずれも一年を通じて起こり得ます。
ストレスや疲れで胃腸炎になることはありますか?
ストレスや過度の疲労そのものが、ウイルスや細菌による胃腸炎を直接引き起こすという明確な医学的根拠は確立されていません。ただし、ストレスは胃腸の動きや体の抵抗力に影響することが知られており、腹痛や下痢など胃腸炎に似た症状につながることもあります。感染性胃腸炎と紛らわしい場合や、症状が長引く場合は受診をご検討ください。
家族が胃腸炎のとき、うつらないためにどうすればよいですか?
とくにノロウイルスなどはごくわずかなウイルス量でも感染が広がりやすいため、石けんを使った流水での手洗いが基本です。嘔吐物やふん便を片付ける際は使い捨ての手袋・マスクを着用し、次亜塩素酸ナトリウムを使って拭き取り・消毒すると安心です。汚れた衣類や寝具は汚れを静かに下洗いしたうえで、可能であれば85度・1分間以上の熱水洗濯を行い、難しい場合は次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒してください。食器やタオルは感染した方と分けて使うようにしましょう。
当院の関連診療ページ
監修:院長 長島周平(内科・消化器内科)
