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胃薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬)を長く飲み続ける必要はある?長期服用のメリットとデメリット

胃薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬)を長く飲み続ける必要はある?長期服用のメリットとデメリット|横浜市横浜駅前の消化器内科・婦人科・内科|横浜駅前ながしまクリニック

2025年10月17日

中高年になると胸やけや胃もたれなど胃の不調で病院を受診し、「胃酸を抑える薬」を処方される方が増えます。代表的な胃酸抑制薬にプロトンポンプ阻害薬(PPI)という薬がありますが、一度飲み始めると「この胃薬はずっと飲み続けないといけないの?」と不安になる方も多いでしょう。PPIは強力に胃酸を抑えることで症状を改善する一方、長期服用による副作用リスクも報告されています。そこで本記事では、PPIや類似の胃薬(H2ブロッカー)の違い、PPIを長期服用するメリット・デメリットについて、最新のエビデンスを踏まえてわかりやすく解説します。

胃薬の種類:PPIとは?H2ブロッカーとの違い

PPIは「プロトンポンプ阻害薬」の略で、胃酸を分泌する胃の壁細胞内のポンプ(プロトンポンプ)を直接ブロックし、胃酸分泌を強力に抑える薬です。一方、H2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)は胃酸分泌を促すヒスタミンという物質の受容体をブロックすることで、胃酸の分泌をある程度抑える薬ですhealth.harvard.edu。両者とも胃酸過多による症状(胸やけ、胃痛など)を緩和しますが、その効果の強さと作用時間に違いがあります。

効果の強さ

一般にPPIの方が胃酸抑制効果は強力で、逆流性食道炎など酸によるダメージの治癒率はPPIで約90%とH2ブロッカーの70%前後より高いとされています。そのため、症状が頻回または重度の場合にはPPIが優先的に用いられます。

・効果発現の速さ

H2ブロッカーは服用して比較的早く効き始めますが、PPIはポンプを不活性化するのに1~2日程度かかり即効性はありません(市販のPPIでは「14日間の服用を上限」とする注意書きがあります)。PPIはゆっくり効く分、長時間にわたり酸分泌を抑える特徴があります。

耐性の有無

H2ブロッカーでは服用を続けると次第に効果が減弱する(耐性がつく)現象が知られています。一方、PPIではそのような耐性は生じにくく、長期にわたり安定した酸抑制効果が得られます。

以上より、例えば「たまに胃もたれする」程度であればまずはH2ブロッカーや市販の制酸剤で様子を見て、それでも症状が頻繁に起こる場合にPPIを用いるのが一般的です。逆流性食道炎(GERD)や胃・十二指腸潰瘍など酸関連疾患の治療には現在PPIが第一選択となっており、症状の重い患者さんほどPPIの恩恵を強く受ける傾向があります。一方でH2ブロッカーは安全性が高く重大な副作用がほとんど報告されていない点はメリットですが、効果がマイルドで症状によっては十分な改善が得られないこともあります。

PPIを長期服用するメリット(必要とされるケース)

PPIは本来、一定期間(例えば8週間程度)服用したら症状の改善に応じて減量・中止を検討する薬です。しかし、以下のようなケースでは症状再発や合併症予防のために長期的あるいは継続的なPPI服用が推奨される場合があります

重度の逆流性食道炎

食道に潰瘍ができるほど炎症が強い逆流性食道炎(Los Angeles分類のC~Dなど)では、治癒後も再発予防のためPPIの維持療法を無期限に続けることが推奨されています。途中で薬をやめると激しい酸逆流が繰り返し、食道のただれや狭窄(食道が細くなる合併症)を起こす恐れが高いためです。

バレット食道

慢性的な胃酸逆流で食道の粘膜が胃の粘膜に置き換わってしまう前がん病変をバレット食道と呼びます。バレット食道があると食道腺がん発生リスクが高まりますが、PPIで胃酸による刺激を抑えることでがんへの進行を抑制できる可能性があります。実際、重度GERDやバレット食道の患者さんでは副作用への心配からPPIを勝手に中止すべきではないと専門家は指摘しています。これらのケースでは胃酸抑制のメリットが副作用リスクを上回るため、医師の判断で長期継続することになります。

・難治性の消化性潰瘍・予防目的

ピロリ菌感染がなくなった後も再発を繰り返す胃・十二指腸潰瘍の患者さん、あるいは関節痛などでNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やアスピリンを長期間服用せざるを得ない患者さんにも、PPIの長期投与が行われることがあります。これにより潰瘍の再発や消化管出血を予防でき、患者さんの生命予後を改善するメリットがあります。特に潰瘍で出血を起こした既往のある方では、再出血予防のため一定期間のPPI継続が標準的です。

以上のようなケースでは、たとえPPIを長期間服用しても治療上のメリット(症状のコントロールや合併症の防止)の方が大きいと考えられています。ガイドラインでも「明確な適応(必要性)がある限り、PPI長期使用による利益はリスクを上回る」とされており、必要な患者さんが副作用を過度に心配して薬を中断することがないよう注意喚起されています。

逆に言えば、「とりあえず出されて何となく飲み続けている」というような明確な理由のない長期処方は望ましくないということです。症状が落ち着いている場合や軽症例では、主治医も定期受診の際に減量・休薬を検討しますので、不安な方は一度「この薬はいつまで続けますか?」と相談してみると良いでしょう。

PPI長期服用のデメリットと副作用リスク

PPIは比較的安全な薬ですが、近年その長期使用に伴う副作用やリスクについても様々な研究報告が出ています。主なデメリットとして考えられているポイントを挙げます。

感染症リスクの増加

胃酸は食べ物に混入した細菌を殺すバリアの役割を果たしています。PPIで長期間胃酸を抑えると、その防御力が低下し腸管感染症(食中毒やクロストリジウム・ディフィシル感染症など)にかかりやすくなることが分かっています。胃酸の逆流が気管に及ぶと誤嚥性肺炎などのリスクも高まる可能性があります。

ビタミン・ミネラル吸収低下

胃酸は食物中のビタミンB12や鉄分の吸収を助けています。胃酸が十分に出ない状態が続くと、ビタミンB12の欠乏鉄欠乏による貧血、さらにはマグネシウムやカルシウム吸収低下による電解質異常・骨密度低下を招く恐れがあります。実際、PPI長期服用者で血中ビタミンB12値の低下が報告されていますが、多くの場合は軽微で臨床的に問題とならない範囲とも言われます。

骨折リスク

上記のカルシウム吸収低下とも関連しますが、PPI長期使用者は使用していない人に比べて骨粗鬆症による骨折(特に股関節や背骨の骨折)リスクが高いとのデータがあります。ただしこれもPPI自体の影響というより、高齢の患者さんが多いことによる背景因子の可能性があります。

腎機能低下・心血管疾患・認知症

PPIの長期服用者は慢性腎臓病(CKD)の発症率や心筋梗塞など心血管イベントの発生率が高いとする観察研究がいくつか報告されました。また、一部の研究では認知症(アルツハイマー病)との関連を指摘するものもありました。しかし、これらはいずれも統計上の関連を示したに過ぎず、因果関係は明確ではありません。後述の大規模解析ではこうしたリスクに有意な増加は認められておらず、過度に心配しすぎないことも重要です。

・胃粘膜への影響(ポリープ・がんなど)

PPI長期使用により胃の中は慢性的な低酸状態になります。そのため、胃粘膜にポリープ(胃底腺ポリープ)が多数できてしまうことがあります。さらに、ピロリ菌感染が残っている人では胃粘膜の萎縮が進んで腸上皮化生(胃粘膜が腸の粘膜に置き換わる前がん状態)を生じるリスクが指摘されています。幸い、PPI長期使用による胃底腺ポリープは服用を中止すれば退縮し、これ自体が胃がんに進行する例は極めてまれだと報告されています。

胃がんのリスク

最も心配される点かもしれませんが、PPI長期使用と胃がん発生リスクの関係については現在も議論が続いています。一部の疫学研究から、特にピロリ菌を除菌した後もPPIを飲み続けていると胃がんの発生率が高くなる可能性が報告されました。しかしながら、これを裏付ける明確な因果関係は証明されていません。実際、PPI長期使用者で胃がんを含む消化管がんの発生率を数年間追跡調査した前向き試験では、PPIを使っていない人との間に有意差が見られなかったとの報告があります。米国胃腸病学会(ACG)の見解でも「観察研究で指摘される副作用リスクの多く(胃がんを含む)に因果関係は認められておらず、現時点で懸念すべき明確な証拠はない」という立場です。

こうしたリスク情報を見ると不安になるかもしれませんが、注意すべき点は、これらの多くは「統計上関連が見られた」という報告であり、必ずしもPPIがそれらの問題を直接引き起こすと証明されたわけではないということです。例えばPPIを長く服用している患者さんは高齢で持病が多い傾向があり、それ自体が骨折や腎機能低下の原因になり得ます。過去の観察研究で指摘された「PPI服用者にリスクが高い」という現象も、こうした背景因子を十分補正できていないために生じた可能性があります。実際、近年の大規模な臨床研究ではPPI使用によって認知症や心血管疾患、腎障害などが増えるエビデンスは確認されておらず、前述のように消化管感染症(クロストリジウム・ディフィシル腸炎など)のリスク増加だけは一貫して認められるものの、その他の重篤な副作用については過度に恐れる必要はないとの結論です。現に、高齢者17,000人以上を対象としたランダム化試験(平均3年間の追跡)でも、PPI群で死亡率や認知症、骨折、腎障害、がん発生率がプラセボ群と比べて有意に増加しなかったとの報告があります。

とはいえ、薬を長く使う以上全くリスクがゼロとは言い切れません。そのため医師は、PPIを長期処方する際には必要に応じて定期的に血液検査を行い副作用の兆候がないか確認したり、骨粗鬆症のリスクが高い患者さんにはビタミンDやカルシウム補充を検討するといった配慮をしています。また、長期にPPIを服用する場合でも、油断せず胃カメラ(上部消化管内視鏡)による定期的なチェックを受けておくことが勧められます。胃酸で症状が抑えられてしまうと、仮に胃がんなどが進行していても発見が遅れてしまうリスクがあります。内視鏡検査を定期的に行えば、そうした重大な病変の見落としを防ぐことができます。

PPIはやめられる?減薬・中止のポイント

「副作用が怖いからすぐにでもPPIをやめたい」と考える患者さんもいるかもしれません。確かに前述のように必要のない長期服用は避けるべきですが、自己判断で急に中止するのはおすすめできません。PPIを長く使った後に急にやめると、一時的に胃酸分泌が過剰に反跳してしまい(リバウンド現象)、かえって強い胸やけや胃痛がぶり返すことがあります。実際、医師に相談せず自己中断してしまった結果、「薬を飲む前より症状が悪化した」と感じるケースも報告されています。

PPIを中止したい場合は、必ず処方医と相談してから徐々に減量・休薬していくことが大切です。医師は症状の具合を見ながら、例えばPPIの1日量を少しずつ減らしたり、2日おき・頓服(必要なときだけ)の服用に切り替える、あるいは作用の穏やかなH2ブロッカーに置き換える(ステップダウン療法)といった方法を検討してくれます。こうすることでリバウンドを最小限に抑えつつ、無理のない減薬が可能になります。

一方で、本来はPPIを継続すべき病態にもかかわらず、副作用を心配するあまり患者さんが自己判断で中断してしまうケースもあります。例えば重度の逆流性食道炎やバレット食道の患者さんで、「ネットでPPIの副作用を見て怖くなり、こっそり飲むのをやめていた」という例も散見されます。しかしこのような中断は、症状を再燃させるだけでなく、放置すれば食道狭窄やがんのリスクを高める可能性もある危険な行為です。主治医は患者さんが抱える副作用への不安も理解していますので、勝手にやめる前にぜひ一度相談してください。「この薬は減らせますか?」と聞けば、多くの場合は現状の病状から減薬可能かどうか丁寧に判断してもらえます。

近年では、PPIを適正に中止・減量する取り組み(デプレスクリプション)も注目されています。2022年には米国消化器病学会(AGA)がPPIのデプレスクリプションに関するガイドラインを発表し、「真に必要な患者には継続しつつ、適応のない患者には漫然と処方しない」ことを推奨しています。具体的には、逆流性食道炎では症状が落ち着いた時点でPPI中止を試みること、ただしバレット食道や重症食道炎のある患者は中止の対象としないことなどが示されています。主治医と定期的に治療方針を見直し、「このまま薬を続けるべきか」話し合うことが大切です。

減薬を進める上では、生活習慣の改善も欠かせません。胃酸逆流の症状は、食事内容や日頃の習慣を見直すことで軽減できる場合があります。例えば脂肪分やカフェインの摂取を控える、就寝前の食事を避けて食後はすぐ横にならない、枕を高くして寝る、減量して肥満を解消する、タバコを吸っている人は禁煙する、といった工夫はGERD症状緩和に有効です。これらの対策だけで重症の逆流性食道炎が治ることは少ないですが、薬を減らす上で助けになります。

さらに、中高年以降の方で胃の症状が長引いている場合には、一度は胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)を受けておくことも重要です。胃酸による不調の裏にピロリ菌感染や胃・十二指腸潰瘍が隠れていたり、まれに早期胃がんが潜んでいる可能性もゼロではありません。PPIで症状だけ抑えて重大な病変の発見が遅れることのないよう、必要に応じて精密検査を受けることも検討しましょう。なお大腸がん検診の観点では、50歳以上では大腸カメラ(大腸内視鏡検査)による定期的なチェックも推奨されています。胃もたれなど消化器症状が気になる方は、この機会に消化管全体の健康チェックを考えてみても良いでしょう。

まとめ

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸過多による症状を劇的に改善する有用な薬であり、重症の逆流性食道炎や難治性潰瘍など明確な適応がある場合には、長期にわたり服用を続けるメリットが期待できます。一方で、必要のない人まで漫然と飲み続けることは望ましくなく、長期服用に伴う副作用リスクとベネフィットのバランスを考えて使用すべきです。幸い、PPIの安全性プロファイルは良好で、適切に使う限り重大な副作用はまれだと考えられています。「この薬をこのまま飲み続けて大丈夫かな?」と心配な方は、遠慮なく主治医に相談し、定期的に治療方針を見直してもらいましょう。専門医と二人三脚で、薬のメリットとデメリットを見極めながら上手に付き合っていくことが大切です。

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