2025年9月13日
健康な人でも日常的に「おなら」は出るもので、実は1日に平均13~21回、合計0.5~1.5リットル程度のガスが排出される正常な現象です。おなら自体は健康の証とも言えますが、特に40代以上で便秘がちな方の中には「おならが多い・臭いのは何かの病気では?」と不安になる方もいるでしょう。本記事では、おならが発生する仕組みや原因、便秘との関係、そして注意すべきサインについて解説します。

おならの仕組み:どこからガスがくる?
おなら(放屁)は、消化管内に溜まったガスが肛門から排出される現象です。ガスの由来には大きく2つあります。1つは飲み込んだ空気です。食事や会話の際、私たちは少量の空気を一緒に飲み込んでいます。ただしその多くは胃でゲップとして出たり血液中に吸収され、実際に腸まで届いておならとして出る空気はごくわずかだとされています。
もう1つの主要な原因が腸内細菌による発酵です。消化しきれなかった食べ物(特に食物繊維や難消化性の糖質)が大腸に届くと、腸内の細菌がそれらを分解する過程でガスを発生させます。この発酵由来のガスが実はおならの大部分を占めています。発酵で生じる主なガス成分は水素、二酸化炭素、メタンで、腸内細菌の種類によっては硫黄を含むガスも発生します。硫黄ガスは腐卵臭(卵が腐ったような臭い)のもとであり、おならの嫌な臭いの原因です。
おならが増える原因:食生活と習慣
上記のように腸内発酵によるガス発生がおならの主因ですから、何を食べるかによっておならの量や臭いは左右されます。一般に、消化されにくい炭水化物を多く含む食品は腸内でガスを発生させやすいことが知られています。代表的な例を以下に示します。
・豆類(大豆、インゲン豆など)
食物繊維や難消化性のオリゴ糖類を豊富に含み、腸内細菌に発酵されやすい。
・キャベツやブロッコリーなどの野菜
食物繊維に加え硫黄成分を含むものがあり、ガスと臭いが発生しやすい。
・イモ類(サツマイモなど)
デンプンや食物繊維が腸まで届きやすく、発酵が進みます。
・乳製品(牛乳など):
乳糖を含み、乳糖不耐症の人では消化されずに大腸でガス発生の原因に。
・果物(果糖を多く含むもの)
果糖は吸収されにくいと腸内発酵を促します。
・人工甘味料(ソルビトール等)
糖アルコールのソルビトールは小腸で吸収されにくく、腸内でガスを発生させます。
また、食習慣や行動もおならの発生に影響します。例えば早食いや炭酸飲料の摂取、ガムの咀嚼や喫煙は空気嚥下(多量の空気を飲み込むこと)につながり、お腹にガスが溜まりやすくなります。ストレスや緊張も無意識に空気を呑み込みやすくする要因です。このように飲み込んだ空気が増えると、おならの回数や腹部の張りが増えることがあります。ただし前述の通り、飲み込んだ空気は主なおならの原因ではなく、大半は腸内細菌が作り出しています。
さらに、消化不良もガス増加の一因です。小腸で栄養を十分吸収できないと、未消化の栄養が大腸で発酵してガスが過剰に発生します。例えば、乳糖不耐症では乳糖が分解されず大腸でガスを発生しますし、グルテンなど特定の食品に対する不耐症でもガスが増えがちです。また、抗生物質の使用や腸内フローラの乱れによって一部の細菌が異常増殖すると、通常よりガスや臭いが強くなることもあります。
便秘とおならの関係
便秘がちな人はおならのことで悩むケースが多いようです。便秘とは腸内に便が長くとどまり排出が滞った状態です。腸内に長く滞留した便は細菌による腐敗が進み、ガスが過剰に発生しやすくなります。その結果、お腹が張って苦しくなったり、普段よりおならの臭いが強くなる傾向があります。実際、便秘の患者さんではおならの回数や臭気が増えることが報告されています。
便秘が原因で腸内にガスが溜まっている場合、まずは便秘の解消が大切です。十分な水分補給や適度な食物繊維の摂取、適度な運動習慣は腸の動きを促し、ガスの排出もスムーズにします。特に水溶性食物繊維(野菜・果物・海藻類など)は腸内環境を整えます。ただし前述のように急激な食物繊維増加はガス増加を招くため、ゆっくり増やすことを心掛けましょう。また、お腹を温めたり軽くマッサージすることで腸の蠕動(ぜんどう)運動を促し、ガスや便を排出しやすくする効果も期待できます。
これらの生活習慣の改善によって多くの場合、便秘とそれに伴うおならの悩みは軽減します。実際、便秘が解消すればおならの回数が減ることは経験的にも知られています。一方で、長期間便秘が続くと腸内では悪玉菌が優勢になりがちです。悪玉菌が増えると硫黄やアンモニアなど臭いの強いガス産生が増え、おならの臭い悪化につながる可能性があります。便秘を放置せず、腸内環境を改善することがおなら対策にも重要なのです。
おならと健康:受診の目安
大半のおならは生理的なもので、おなら自体は病気ではありません。臭いの有無や回数にも個人差がありますので、「人よりおならが出るかも」と過度に心配しすぎる必要はありません。ただし、中年以降になっておならの様子が「今までと明らかに違う」「何かおかしい」と感じる場合や、次のような警戒サインがある場合は念のため医療機関(消化器内科など)を受診しましょう。
・体重減少や食欲不振がある。
・便に血が混じる、黒い便が出る。
・腹痛や吐き気など、お腹の強い不調を伴う。
・下痢と便秘を繰り返す、あるいは便が細くなった。
これらの症状がある場合、医師は必要に応じて詳しい検査を行います。例えば大腸のポリープやがんが疑われる場合には大腸カメラ(大腸内視鏡検査)で大腸内部を調べたり、上腹部の不調があれば胃カメラ(上部消化管内視鏡)で胃や食道を観察するといった検査が検討されます。特に40歳以上で急に原因不明の腹部膨満感(お腹の張り)やおならの異常が出てきた場合、念のため大腸がんや卵巣がんがないか確認する検査を行うことがあります。過度に不安になる必要はありませんが、「いつもと違う」症状が続くときは早めに専門医に相談しましょう。
なお、検査で特に異常が見つからない場合でも過敏性腸症候群(IBS)の一型としてガスによる膨満感が続くケースもあります。このIBSのガス型では、ストレスや緊張でガス症状が悪化しやすいことが知られています。IBSの場合、食事の見直し(例:低FODMAP食の試行)やストレス管理で症状が和らぐことがあります。医師と相談し、自分に合った対処法を見つけると良いでしょう。
おわりに
おならは恥ずかしいもの、と敬遠されがちですが、人間の消化管にとって自然で大切な現象です。腸内環境や食生活のバランスを整えることで、おならの悩みはかなり軽減できます。便秘がちな40代以上の方も、まずは生活習慣の改善から始めてみましょう。それでも改善しない頑固な便秘やおならの異常がある場合は、無理に我慢せず専門医に相談してください。おならとうまく付き合い、健やかな毎日を過ごしましょう。