2025年8月11日
「膵がん(膵臓がん)は“沈黙のがん”」と呼ばれます。膵臓は体の奥にあり、小さいうちは自覚症状が乏しいため、気づいた時には進行していることが少なくありません。実際、腹痛や背部痛、黄疸、原因不明の体重減少や食欲低下、そして“急に糖尿病が出る・悪化する”ことが発見のきっかけになる場合があります。まず、この「症状が出にくい」という前提を知ることが、早期発見の第一歩です。

日本では「検診としてのスクリーニング」は未確立
日本の公的ながん検診の指針には、現時点(2025年4月更新)で膵がんは含まれていません。症状のない人を対象とした一律の検診法は定められておらず、任意の人間ドック等で受ける場合も、メリットとデメリットを理解したうえで選択することが重要です。
米国の推奨でも、無症状の一般成人に対する膵がん検診は「推奨しない(D recommendation)」とされています。つまり、今のところ“万人向けに有効な検診”は確立していない、というのが国際的な共通見解です。
早期発見につながる「気づきのサイン」
一律の検診がないからこそ、“サイン”に敏感でいることが大切です。次のような変化が重なったら、早めに医療機関へ相談を。
- 50歳以降の新規発症糖尿病、短期間での血糖悪化
- 原因不明の体重減少・食欲低下
- 背中の痛み、黄疸(白目や皮膚が黄色い) など
これらは膵がん以外でも起こりますが、特に新規発症糖尿病(NOD)は膵がんの“手がかり”になり得ることが研究で示されています(とはいえ、NODの大多数は膵がんではありません)。
どんな人が“注意が必要”?
以下のリスク因子がある方は、症状の有無にかかわらず、かかりつけ医で相談しておくと安心です。
- 家族歴(親・兄弟姉妹・子どもに膵がんが2人以上=家族性膵がん)
- 糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
- 喫煙、飲酒、肥満 などの生活習慣
これらは国立がん研究センターの一般向け解説にも明記されています。
医療機関でのチェックはこう進む
症状やリスクから膵がんが疑われた場合、まずは血液検査や腹部超音波でスクリーニングし、必要に応じて造影CT、MRI/MRCP、超音波内視鏡(EUS)などで詳しく評価します。診断確定には細胞・組織検査(病理)の確認が重要です。なお、腫瘍マーカー(CA19-9など)は診断補助や経過観察の位置づけで、数値だけで“ある・なし”を決められません。
高リスク群では「専門施設でのサーベイランス」を検討
家族性膵がんや遺伝性腫瘍症候群など高リスク群では、専門施設でEUSやMRIを用いた定期的サーベイランスによって、切除可能な段階での発見率が高まる可能性が報告されています。どの検査をどの頻度で行うかはプログラムにより異なり、EUSは小さな充実性病変の検出に強みがあるとされます(エビデンスは進行中)。適応の判断は、遺伝カウンセリングや専門医への紹介を含め、個別に行われます。
「血液で早期発見」は本当にできる?
血中miRNAなどのバイオマーカー研究が活発で、有望な報告は増えています。しかし、一般集団を対象に確立した検診法としては未だ研究段階で、単独での実装には慎重な検証が必要です。現状では、症状や画像・臨床情報と組み合わせた総合的評価が不可欠、というのが総説の結論です。
今日からできるセルフケアと受診の目安
・禁煙、飲酒を控える、体重管理と運動:膵がん予防や全身の健康に有益
・糖尿病・慢性膵炎のコントロール:悪化時は放置しない
・次の“赤信号”があれば早めに受診:50歳以降の新規糖尿病+体重減少/背部痛の持続
/黄疸 など
生活習慣の見直しと、異変に気づいた時の適切な受診が、現実的で効果的な「早期発見戦略」です。