2025年5月29日
お腹の調子が悪く、トイレの心配が頭から離れない──過敏性腸症候群(IBS)の症状に悩む方は少なくありません。下痢や便秘を繰り返したり、突然の腹痛やお腹の張りに苦しんだりして、つらい日々を過ごしている方も多いでしょう。IBSは検査をしても炎症や腫瘍など明確な異常が見つからないにもかかわらず症状が出る病気で、ストレスや生活習慣、そして食事が症状悪化の引き金になる場合があります。実は「体に良い」と思って食べていたものが、お腹の張りやガスの原因になっていることもあるのです。そこで近年注目されているのが、FODMAP食事法という新しいアプローチです。食事内容を見直すことで、お腹の不調(IBS症状)の改善につながる可能性があるとして期待されています。
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FODMAPとは何か – 発酵性の糖質に注目
FODMAP(フォドマップ)とは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい短鎖の炭水化物(発酵性の糖質)の総称で、複数の糖質の頭文字から取った言葉です。具体的には「Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖類)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類) and Polyols(ポリオール:糖アルコール類)」の頭字語で、例えばオリゴ糖類には豆類・玉ねぎ・にんにく等、二糖類には乳製品(牛乳・ヨーグルト等)に含まれる乳糖、単糖類には果糖を多く含む果物・はちみつ、ポリオール類には人工甘味料のソルビトールやキシリトールなどが該当します。これらFODMAPに分類される糖質は消化吸収されずに大腸まで届き、腸内細菌のエサとなって発酵を引き起こします。その際に発生するガスや、未吸収の糖を薄めようとして腸管に集まる水分によって、IBSの方ではお腹の張りや腹痛、下痢などの症状が誘発されやすくなるのです。
日本消化器病学会Hpより👇
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/ibs_2023.pdf
機能性消化管疾患Hpより👇
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf
高FODMAP食品と低FODMAP食品の違い
高FODMAP食品とは、先述のFODMAPを多く含む食品のことです。IBSの人にとっては高FODMAPの食品を摂ると腸内でガスが発生しやすく、水分バランスも崩れやすいため、腹痛やお腹の張り、便秘・下痢などの症状が悪化しがちです。反対に低FODMAP食品はFODMAP含有量が少なく、腸に優しい食品とされています。例えば、高FODMAPの代表例には玉ねぎ、にんにく、小麦(パンや麺類)などがあります。玉ねぎやにんにくにはフルクタンというオリゴ糖が多く含まれ、小麦製品にはフルクタンに加えて難消化性の糖質が含まれるため、IBSではお腹が張りやすいのです。また牛乳など乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)や、リンゴ・スイカなど果物に多い果糖、キャベツやキノコ類、豆類、人工甘味料のソルビトール(ガムや飴に含まれる)といったものも高FODMAP食品として知られています。これらを過剰に摂取すると腸内でガスが増え、症状悪化の一因となります。
一方、低FODMAP食品の例としては米(ご飯)や米粉のパン、にんじん、きゅうり、トマト、レタスといった野菜類、じゃがいもなどのいも類、バナナやキウイなどの果物、そして肉類・魚・卵、豆腐(特に木綿豆腐)や乳糖オフの牛乳などが挙げられます。これらは腸で発酵されにくくガスを発生しにくいため、IBSの方でもお腹の張りを起こしにくい食品です。例えばキャベツ、レタス、トマト、ブロッコリー、じゃがいもなどは代表的な低FODMAP野菜で安心して摂れますが、玉ねぎやキノコ類はお腹が張りやすいため注意が必要だとされています。つまり、高FODMAP食品を避けて低FODMAP食品を選ぶことで、腸内のガス発生や水分過多を抑え、IBSの困った症状を和らげられるというわけです。

太陽化学Hpより参照
https://www.taiyo-medi.com/tokusetsu/p0670.htm
FODMAP食事法の実践:除去と再導入のステップ
FODMAP食事法は、大きく「除去期」と「再導入期」の二段階に分けて実践します。一時的に高FODMAP食品を徹底的に除去し、その後で少しずつ戻していくことで「自分にとって特に問題となる食品」を突き止めることが目的です。具体的な進め方を以下に紹介します。
- 除去期(エリミネーション) – まず高FODMAP食品を一旦すべて控える期間です。パンや乳製品、特定の果物・野菜など前述の高FODMAP食品を避け、可能な限り低FODMAP食品のみで生活します。期間はおよそ2〜6週間(目安は約3〜4週間)続けます。この間、お腹の症状がどう変化するか「食事日記」をつけて観察しましょう。もし高FODMAP食品をしっかり除いたにもかかわらず症状が改善しない場合、IBS症状の原因がFODMAPではない可能性もあります。無理に続けず専門医に相談しましょう。
- 再導入期(チャレンジ) – 除去期で症状が落ち着いたら、制限していた食品を少しずつ試しながら戻していく段階です。一度に色々戻すのではなく、FODMAP含有食品を種類ごとに1つずつ追加します。例えばまずはパンを少量食べてみる、次に果物をひとつ試す、といった具合に食品ごと・カテゴリーごとに順番に少量から様子を見ます。食べてもお腹の症状が出なければ「その量までなら食べても大丈夫」と判断でき、逆に少量でも症状がぶり返す食品があれば、それが自分にとって避けるべき高FODMAP食品ということになります。
- 維持期(個別化) – 最終ステップでは、再導入期の結果を踏まえて「自分にとってのNG食品」だけを今後も控える食生活へ移行します。IBSの症状を起こす原因食品がわかったら、それを除いて献立を立てましょう。ポイントは、避ける食品は必要最小限に留めることです。むやみに多くの食品を永久に除去してしまうと食事の選択肢が狭まり、栄養面でも偏りが生じてしまいます。低FODMAP食事法は決して「一生高FODMAP食品を食べない」ことが目的ではなく、あくまでお腹と相性の悪い食品を見極めるための一時的な方法です。再導入で問題なかった食品は栄養バランスのため適度に取り入れ、除去する食品は本当に症状の原因となるものだけに絞りましょう。
FODMAPの科学的根拠と海外での活用
IBSの食事療法として低FODMAP食が注目されるのには、科学的な裏付けがあります。オーストラリアのモナッシュ大学(Monash University)の研究チームがこの食事法を提唱して以降、世界各国で臨床研究が行われ、低FODMAP食によってIBSの症状が軽減したとの報告が多数されていますbrand.taisho.co.jp。下痢型・便秘型いずれのIBSでも症状改善が見られたとの研究結果が報告されており、エビデンス(科学的根拠)の高い食事療法と位置付けられています。こうした背景から欧米を中心にIBSの治療に低FODMAP食が取り入れられており、専門の栄養士による指導プログラムや専用レシピ本も数多く出版されています。
特にモナッシュ大学は低FODMAP食のパイオニアであり、最新の情報をまとめたスマートフォン用アプリも提供しています。このアプリでは世界各国の食品についてFODMAP含有量を検索でき、日本で手に入る食品のデータも随時更新されています。海外ではこのように患者さん自身が日々の食事でFODMAPを意識できるツールが活用されており、日本国内でも徐々に知られるようになってきました。「低FODMAP認定」の食品やメニューが登場している国もあり、IBSの新たな食事管理法として定着しつつあります。
こんな方におすすめの食事法です
すべてのIBS患者さんに低FODMAP食事法が必要という訳ではありません。まずは通常の薬物療法や生活習慣の改善が基本ですが、それでもなかなか症状が改善しない方は試してみる価値があります。特に以下のようなケースではこの食事法がおすすめです。
- お腹の張り(膨満感)やガスが多いと日常的に感じている
- 腹痛や不快感が慢性的にあり、下痢や便秘を繰り返す(IBSの典型症状)
- 症状が気になって食事を楽しめない、あるいは食べるのが不安で特定の食品を避けがちになっている
- 整腸剤や消化器内科での薬物治療、ストレス対策などを行っても十分な効果が得られていない
こうした方は、専門医の指導のもとで低FODMAP食を試験的に取り入れてみることで、症状の変化を実感できる可能性があります。実際、低FODMAP食を実践することで「常に張っていたお腹が楽になった」「腹痛や下痢の頻度が減った」といった声も報告されています。もちろん個人差があり、すべての方に劇的な効果がある訳ではありませんが、つらい症状でお悩みの方にとって食事による体質改善の一つの選択肢となるでしょう。
実践上の注意点と限界
最後に、低FODMAP食事法を実践する上での注意点や限界についても触れておきます。
まず、この食事法は誰にでも必ず有効というものではないことを理解しましょう。IBSの症状原因は人それぞれで、ストレスや腸の運動異常、腸内細菌のバランスなど様々です。FODMAPはその一因に過ぎず、低FODMAP食療法を行っても効果が感じられない人もいます。その場合は無理に続けず、医師と相談して他の治療法を検討することが大切です。
次に、自己判断で長期間にわたり食品制限を続けないようにしましょう。前述のとおり低FODMAP食はあくまで一時的な「診断法」であり、一生続ける前提の食事法ではありません。闇雲に食品を制限し続けると、栄養バランスの偏りや腸内細菌への悪影響(善玉菌の減少など)も指摘されています。症状が落ち着いたら必要な食品は適宜戻し、除外する食品は必要最小限にとどめることが推奨されています。
さらに重要なのは、専門家の指導のもとで実施するという点です。低FODMAP食は進め方によっては栄養面で偏りが出たり、かえって体調を崩したりする恐れもあります。自己流で「これはダメ」と食品を減らしすぎるのは危険です。可能であれば消化器内科の医師や管理栄養士に相談しながら進め、一人ひとりに合ったやり方や期間を決めましょう。また、IBSだと自己判断していても、同じ症状が大腸がんや炎症性腸疾患など他の病気によるケースもあります。特に血便や原因不明の体重減少がみられる場合は、IBSではなく他の疾患が疑われるため注意が必要です。検査を受けていない方は、食事療法を始める前に胃カメラ・大腸カメラなどで他の病気がないことを確認しておくと安心です。
胃カメラについて👇
https://ykhm-cl.com/medical/medical04/
大腸カメラについて👇
https://ykhm-cl.com/medical/medical05/
結び
つらいIBSの症状に対して、「何を食べるか」という視点からアプローチできるのがFODMAP食事法です。食事内容を工夫することで、お腹の張りや痛みなどIBS症状の改善につながるかもしれません。ただし自己流は禁物ですので、興味のある方はぜひ専門の消化器内科にご相談ください。当院「横浜駅前ながしまクリニック」でも過敏性腸症候群の診療を行っており、必要に応じて胃カメラ・大腸カメラ等の検査も含めた総合的な対応が可能です。IBSかな?と感じたら一人で悩まず、横浜駅前の当院までお気軽にご相談ください。あなたのお腹の悩みの改善に向けて、消化器内科の専門スタッフがお手伝いいたします。
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