痔核の症状を緩和する処方内服薬について|横浜市横浜駅前の消化器内科・婦人科・内科|横浜駅前ながしまクリニック

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痔核の症状を緩和する処方内服薬について

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2025年8月07日

痔核(いぼ痔)にお悩みの方で、「飲み薬で症状を楽にできないか?」と考えている方も多いでしょう。痔核は肛門周辺の血管がうっ血して生じるもので、出血・痛み・腫れ・かゆみ・肛門の違和感などの症状を引き起こします。

これらの症状を和らげるために、医療機関では内服薬(飲み薬)が処方されることがあります。本記事では、市販薬ではなく医師が処方する代表的な内服薬として ヘモクロン(ミクロン化フラボノイド製剤)、乙字湯(漢方薬)、ヘモナーゼ(酵素・ビタミン配合薬)をご紹介します。それぞれの薬の作用機序や使うタイミング、科学的根拠について、できるだけわかりやすく解説します。

さらに、痔核の陰にほかの消化管疾患が隠れていないか鑑別する重要性についても触れます。痔核や肛門の違和感に悩んでいる方は是非参考にしてください。

ヘモクロン(ミクロン化フラボノイド製剤)

ヘモクロンは、トリベノシドという有効成分を含むカプセル状の処方薬です。ミクロン化フラボノイド製剤とも呼ばれ、肛門周囲の血流を改善し、血管のうっ血やむくみ(浮腫)を抑える作用があります。

内痔核に伴う出血・腫れを緩和する目的で処方され、通常は1回1カプセルを1日3回(食後など)服用します。この薬は患部の微小な血管循環を良くし、炎症や浮腫を軽減することで、痔核の出血や腫れを和らげる効果が期待できます。実際、フラボノイド系の薬については多数の臨床研究があり、出血や痛み、かゆみなど痔核の主要な症状が有意に改善するとの報告があります。

例えば2020年の系統的レビューでは、フラボノイド製剤の服用によって痔核の出血頻度がプラセボより有意に減少し、痛みやかゆみなどの症状改善例も多かったことが示されています。こうした科学的根拠から、ヘモクロンはいぼ痔による出血・腫れの症状緩和に役立つ処方薬として用いられています。

ただし即効性の個人差があり、症状が強い場合には座薬や軟膏と併用したり、必要に応じて外科的治療を検討することもあります。また、ヘモクロンで症状が改善しても根本的に痔核を「治す」ものではなく、あくまで症状を抑える補助的な治療である点に留意しましょう。

主な副作用は胃の不快感や発疹など軽度なものがごく一部に報告されていますが、安全性は比較的高く症状の緩和が期待できる薬です。

乙字湯(おつじとう:漢方処方)

乙字湯は江戸時代の漢方医・原南陽が考案した痔の伝統薬で、現代でも痔核や裂肛(切れ痔)によく処方される漢方薬です。6種類の生薬(当帰・柴胡・黄芩・甘草・升麻・大黄)からなり、体力が中程度ある人で便が硬く便秘傾向のある痔核に適するとされています。

乙字湯の作用機序を簡単に説明すると、肛門部の「炎症(熱)」を冷まして腫れや痛みを抑えるとともに、血行を良くして鬱血を改善する働きがあります。配合生薬の柴胡や黄芩、升麻が炎症を鎮め、当帰が血の巡りを改善して傷の治癒を促し、大黄が緩やかな下剤作用で便通を整えます。特に便秘を伴う痔核では大黄の作用により排便をスムーズにすることで痔への負担を減らす効果が期待できます。実際の臨床でも「いぼ痔だけでなくきれ痔による痛みや肛門のかゆみも和らいだ」「便通が良くなり排便時の違和感が減った」といった声が聞かれます(※体験談ではなく一般的な傾向の説明です)。

科学的根拠としても、乙字湯の有効性は報告されています。例えばある国内研究では、内痔核患者の75%で痛みが改善し、90%で出血が止まり、80%で脱出(いぼの脱 prolapse)が軽減したとの結果が示されていま。さらに、重症痔核の硬化療法後に乙字湯を併用した無作為化試験では、術後の痛み緩和や腫れの引く期間短縮に有効であったことが報告されています。

このように乙字湯は痔核の炎症と血行障害を改善し、症状(出血・疼痛・腫脹・かゆみ)の緩和が期待できる漢方薬です。処方時は通常、顆粒や錠剤を食前に服用し、即効性は西洋薬に比べ穏やかですが、体質改善も図りつつゆるやかに症状を和らげるのが特徴です。なお、乙字湯は比較的副作用が少ない処方ですが、まれに下痢や食欲不振などが起こることもありますので、長期連用時は医師の指導に従いましょう。

ヘモナーゼ(酵素・ビタミン配合剤)

ヘモナーゼ配合錠は、痔の飲み薬として古くから用いられている処方薬で、その名のとおり酵素とビタミンを含む組み合わせ薬です。1錠にパイナップル由来のたんぱく質分解酵素ブロメラインと、血行改善作用のあるビタミンE(トコフェロール酢酸エステル)を主成分としています。この2つの成分が相乗的に作用し、炎症を鎮めて血の塊(血栓)を溶解し、患部の血流を良くして組織修復を促進する効果があります。

ヘモナーゼの効能効果として認められているのは、痔核・裂肛に伴う出血、痛み、腫れ、かゆみなど症状の緩解および肛門部手術後の創傷治癒促進です。つまり、いぼ痔・きれ痔のつらい症状を和らげるだけでなく、痔の手術後の治りを早める目的でも処方されます。

例えば出血して腫れている痔核に対しヘモナーゼを内服すると、ブロメラインの抗炎症作用で腫れが引きやすくなり、微小な血栓が溶けて鬱血による違和感が軽減されます。ビタミンEの作用で患部の血行が促されるため、切れ痔の傷や手術傷の治りもサポートされます。服用方法は通常1回1錠を1日3~4回とされます。ヘモナーゼ配合錠自体は古くから使われてきた薬であり、その有効性と安全性は再評価試験でも確認されています。調査では服用患者の約98%で重篤な副作用報告はなく、主な副反応は下痢や胃の不快感など軽い消化器症状が1.6%程度にみられたのみでした。効果に関しても国内臨床試験で約70%前後の患者に有効との成績が示されています。

以上より、ヘモナーゼは痔による出血・疼痛・腫脹・瘙痒(かゆみ)といった症状の緩和が期待できる安全性の高い内服薬といえます。ただし即効で痛みが消えるというより、数日~1週間程度続けることで徐々に症状を改善するタイプの薬です(炎症が強い場合は座薬・軟膏との併用が有効です)。市販薬に同じ成分のものはなく、症状に応じて医師が処方する医療用医薬品です。

痔核と消化管疾患の鑑別:胃カメラ・大腸カメラが必要なケース

痔核があると「出血は全部痔のせいだろう」と思い込みがちですが、実は痔核の症状と消化管の病気の症状は区別が難しい場合があります。とくに中高年の方で血便(便に血が混じること)が見られる場合、痔による出血なのか、大腸のポリープ・がんなどによる出血なのかは精密検査をしないと分からないのです。

例えば、鮮紅色の出血がトイレットペーパーや便の表面につく場合は痔が疑われますが、一方で直腸やS状結腸のがん・ポリープでも同じように鮮血が付着することがよくあります。そのため、肛門に痛みや違和感がなく出血だけが続く場合は「痔だから大丈夫」と自己判断せず、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けて確認することが重要です。実際、血便があれば大腸内視鏡検査は必須といわれるほどで、痔核のある人でも油断はできません。

国立がん研究センターも「痔が原因の出血か、大腸がん・ポリープが原因の出血かは検査しないと判断できない。自己判断せず必ず精密検査を受けましょう」と注意喚起しています。具体的には、便に鮮血が混じる/付着する、黒い便が出る、原因不明の貧血があるといった場合には、医師が必要に応じて大腸カメラや胃カメラ(上部消化管内視鏡)による検査を提案します。

特に「痔の症状以外に明らかな出血が見られる」「便潜血検査で陽性になった」ケースでは、消化管のどこかに潰瘍や腫瘍が潜んでいる可能性もあるため、速やかに内視鏡検査で鑑別することが推奨されます。早期の大腸がんなら内視鏡で切除できる場合も多く、見逃さないことが大切です。

以上のように、痔核の症状に似たサインがあったら放置せず消化器・肛門科を受診し、必要な検査を受けましょう。痔核と診断されれば、今回紹介したような内服薬や軟膏などで症状の緩和が期待できます。一方、もし他の疾患が見つかった場合でも、早期発見・治療によって予後は大きく改善します。「ただの痔だから…」と自己判断せず、適切な診断と治療につなげることが何より重要です。

参考文献(エビデンス)

  1. Sheikh P, et al. 「ミクロン化フラボノイド製剤の痔核疾患における有効性:系統的レビューとメタ分析」 Adv Ther. 37(6): 2792-2812 (2020)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32399811/
  2. Kato N, et al. 「ALTA療法後に乙字湯を併用した痔核患者の症状改善効果」 医学と薬学 (Igaku to Yakugaku) 60(8): 747-753 (2008) jsom.or.jp
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス:「大腸がん検診について」*痔による出血と大腸がんの鑑別に関する注意事項*ganjoho.jp

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