2025年7月12日
本記事は一般情報の提供を目的としており、診断や治療の代替にはなりません。気になる症状がある場合は必ず専門医(消化器内視鏡専門医など)にご相談ください。検査・治療の結果には個人差があります。
1. 大腸ポリープの正体
大腸の最表層である粘膜がイボ状に盛り上がったものを総称して「大腸ポリープ」と呼びます。組織学的には腫瘍性(腺腫・早期がん)と非腫瘍性に大別され、腺腫を切除すると大腸がん発症リスクを大幅に下げられることが分かっています。


2. がん化のメカニズム
良性の腺腫が遺伝子変異を重ねて悪性化(腺腫‐がん進展)するルートが主流です。適切なタイミングでポリープを取り除けば、最大77%の大腸がんを予防できたという長期追跡データも報告されています。
3. リスクファクター
- 年齢:50歳以上で有病率が急増
- 生活習慣:飲酒・喫煙・高脂肪食は肝臓脂肪変性と同様にポリープ形成リスクを高めます
- 家族歴:親子・兄弟に大腸がんや多発ポリープがある場合、リスクは約3倍に上昇
肝臓に脂肪がたまりやすい食事・運動不足がポリープ形成にも影響するため、「肝臓を守る生活=大腸を守る生活」と心得ましょう。
4. 症状がほぼ出ないワケ
小さなポリープは出血や痛みを伴わないため自覚症状に乏しく、「便潜血陽性」や「健康診断の再検査」で初めて見つかるケースが多いのが実情です。
5. 検査法-大腸カメラが決め手

ポリープがない場合は10年、腺腫が複数あった場合は3〜5年など個別管理。
内視鏡下でポリープを切除することで大腸がん死亡を含むアウトカムが有意に改善したとするエビデンスが蓄積しています。
6. 治療-”切る”より”摘む”時代へ
- Cold Snare Polypectomy(CSP)
電流を流さずワイヤーで“絞って”切除する方法です。10 mm未満のポリープなら合併症は極小とされています。

- EMR(Endoscopic Mucosal Resection)
粘膜下注射で病変を“浮かせて”からスネアで通電切除する方法です。10–20 mmの平坦隆起に最適で、分割切除も許容できます。穿孔率0.3–1.3 %と低く日帰り大腸カメラでも施行しやすいですが、分割した場合は局所再発が5–15 %程度に上るため術後フォローが重要となります。

- ESD(Endoscopic Submucosal Dissection) 病変周囲を環状切開し、粘膜下層を丁寧に剥離して一括切除を実現します。20 mm超や形態不整、表在癌が疑われる病変で選択され、R0(病変の取り残しがない綺麗な切除結果)率は95 %以上・局所再発<2 %と優秀です。ただし穿孔4–8 %、手技時間も長く高度な技術と設備が必須となります。

- Hybrid ESD(ハイブリッドESD) 周囲切開→部分剥離で“あと一歩”のところまでESDを行い、最後はスネアで一気に切除する方法です。ESDほど時間が掛からず、EMRより確実性が高い中間的アプローチで、25–30 mm前後の複雑ポリープに好適とされています。手技時間がESD比3〜5割短縮、合併症はEMR並みに抑えられるとの報告もあります。
- Underwater EMR(UEMR) 大腸カメラで病変部の空気を抜き、腸管腔内を精製水で満たした状態で粘膜を“浮かせ”てスネア切除する新手技。粘膜下注射が不要なため準備がシンプルで、内圧が低下することで腸壁がたわまずR0・一括切除率が向上します。
7. フォローアップと再発防止について
- 内視鏡後の間隔:病理結果に応じて3〜10年
- 食事:緑黄色野菜・水溶性食物繊維を意識
- 運動:メタボ解消は肝臓脂肪&大腸ポリープの双方に◎
- 禁煙:ニコチンは再発リスクを上げる可能性
8. まとめ
大腸ポリープは“沈黙のうちに芽生えるがんのタネ”です。大腸カメラで早めに摘み取ることが最良の予防策です。40歳を過ぎたら定期検査をルーティンにしましょう。
その他の参考文献
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38670139/
https://gi.org/journals-publications/ebgi/lee_mar2024/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36192659/
https://www.nature.com/articles/s41598-024-81817-w
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34059445/
https://www.cghjournal.org/article/S1542-3565%2823%2900853-4/fulltext